ごろごろと音を立てて、彼を乗せたベッドが運ばれていく それに私はついていった 怒られるのを覚悟で、そっと手を握った 手術室の扉で、ふたりが分かたれるときまで 手術は長い時間を要した 私は待ちつづけた ただひたすら信じて 結果から言うと 手術はうまくいかなかった ただ、記憶を取り戻すことのみについて言うのなら 成功したとも言える 集中治療室に入れられた彼に出会えたのは二日後だ 会話はできなかったが 一言だけ声が聞けた それは私の名前だった 私は、子供のように声をあげて喜んだ しばらくして、彼は一般病棟に移った そこからはリハビリの毎日だった ふたりで力を合わせ、懸命に生きた ふたりで歩きつづけた そのときには、私たちはもう これから先にどんな事が待とうとも 後悔せずにいられた その自信がある 私たちは 大切なものを見つけられたから 最後にふたりで見た風景が 今も忘れられない それはどこまでも続く夕焼け空だった ふたりで慈しむように見ていた 世界がこんなにも美しいことに、今まで気づきもしなかった 何も知らなかった幼い日々にはもちろん、 苦しみの真っ最中にあった時も その色しか知らなかったら、ずっと気づかないままでいた そんな美しさだった 彼はいつの間にか目を閉じていた その顔はまるで 走り終えたランナーのようにすがすがしいものだった そのとき彼の口が動いて、何かを言った 小さな声だった 寝言かもしれなかった そのまま彼は、 長い眠りについたからだ それでも、その言葉を振り返るたび、私は思う 彼もそのとき、同じ場所にたどり着けたんだと そう思うことができた 私はもう二度と絶望はしない 逆境を乗り越え 永遠の愛を信じて ひたすら信じて ふたりで生きた日々があるから それは私だけの宝物だ かけがえのない宝物だ 苦しくて、胸が張り裂けそうなこともあった 泣き叫んだときもあった そんな日々があったからこそ 今、すべてが輝いて見える 彼と出会ったことも 彼と過ごした日々も 絶望した日も ひとりでなき続けた日も これから歩んでいく道も 過去も 未来も すべてが あの日見た夕焼け空と同じように 輝いて見えた 私はそんな人生の輝きを見つけられたからこそ 自分と同じように悩んでいる人たちを 今度は助けたいと思った そうして歩き続けたら それがいつか自分の生きる意味になっていた だから、それを見つけられた人は 今度は他の人が見つける手助けをしてあげてほしい その時、あなたはもう迷うことはないはずだ あなたは、 あなたの生きる意味をもう持っているはずだから あなたの宝物が、どのようなものか それはどうすれば手に入るのか それは誰にもわからない でも、いつかは必ず見つかる だから、今がどれだけ苦しくても 辛くても、悲しくても 怒っても 笑っても 泣いても 泣き叫んでも それでも進んでほしい あなたの宝物が見つかるその日まで もしこの画面の向こうのあなたが その道の途中で、ひとりきりになってしまったとしても 大丈夫だ あなたはひとりきりじゃない 私がここにいる いつまでも共にゆくから だから安心してほしい それが私が 彼と共に歩んで 一緒に見つけたものだから name:森のくまさん